レイルウェイライター/気まぐれ列車

JR九州サザンクロス ■種村直樹■

 レイルウェイライター種村直樹は、多くの鉄道ファンと一緒に旅する。そして自ら楽しむ。これまでの作家は編集者と「道連れ」というスタイルが多かった。内田百間の「山我」君、阿川弘之の「狐狸庵」「マンボウ」氏、宮脇俊三にも「編集者」が登場する。種村はこの手法をとらず自分の鉄道仲間と旅を楽しむ。ドキュメントとでも言おうか。新聞記者らしい手法だ。

 種村は昭和54年(1979)に国鉄全線2万キロの完全乗車を達成するが、『……僕はただ乗ることよりも、親しい友と汽車に揺られて未知の土地へ出かける旅が好きで…』(乗ったで降りたで完乗列車)という気持ちが根底にあるのだろう。完乗してからは、さらに強まったのではないか。鈍行乗り継ぎ、郵便貯金、途中駅下車の「ORITADEごっこ」など、次々と新しい旅を楽しむ。完乗など夢の夢の1ファンからすると、うらやましいかぎり。

気まぐれ列車で出発進行(実業之日本社)

 阿房列車に対抗して(といえば種村は首を横にふるだろうが)「気まぐれ列車」を出発進行させた。『…あまりこまごました予定をたてず、その日の気分によって、あちらにへ寄ったり、こちらで降りたりする汽車旅を「気まぐれ列車」と名づけた』。鉄道ジャーナル社「旅と鉄道」で掲載されたシリーズでは日本外周を回る。

 読者との旅も増える。そのつど鉄道ファンの若者が生き生きと描かれている。種村“記者”の目だ。幹事として旅をサポートするしっかり者、ちょっぴり脱線する子とさまざま。もしかすると、鉄道ファンを分析した、ものすごいドキュメンタリーなのかもしれない。

 『多くの参加者が出入りするたび……全く協調性のない子、すぐ友だちをつくってしまう子の差が甚しいことにも気づく、何日も旅しているうち、自然に色分けができてしまったようで、このまま放っておくのも気になる』

 『頭は良さそうなのだが、普通の雑談、座談ができず、自分の言いたいことだけを大声でしゃべるばかり、それも本人は大まじめで周囲の意向など気にせず迷惑をかけているような少年もいて何度も叱るのだけど効き目がない…』。上から目線の文体は好みの分かれるところだが、熱烈なファンを引率する種村学校の校長先生の物語は続く。

 芸能人やタレントの旅行記で成立する内容だが、このさじ加減が「種村の技」なのかも知れない。

レールウェイレビュー(中央書院)

 種村“記者”らしいのは、駅では必ずローカル新聞を買うこと。『改札出れば出ただけのことはあった。キヨスクで日刊留萠新聞を見つける』(日本縦断鈍行最終列車)。どこそこで、新聞を買う。読む。活字から離れられない。そんな種村の労作は鉄道ジャーナルの「レールウェイレビュー」だろう。全国を乗り回った体験、記者の目と鉄道ファンの目で、複眼的に出来事を分析。種村的鉄道時評を繰り広げる。こちらの方が主戦場なのかもしれない。

 温泉好き。駅弁好き。酒も煙草も好きらしい。最近、体を悪くされたそうだが、酒と煙草を控え、これからも楽しい文章を発表して欲しい。(※追記=2014年11月6日に78歳で亡くなられた)


 種村直樹(たねむら・なおき) 1936年~2014年、滋賀県大津市生まれ。京大卒。毎日新聞記者を経て、1973年からレイルウェイライター宣言。「鉄道旅行術」「気まぐれ列車で出発進行」「乗ったで降りたで完乗列車」鉄道著書多数。

 改訂2002.8.14


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